どこへ行くフランス

 来年は、フランスで重要な大統領選挙が行われる。

現在大統領であるシラク氏は、12年間もエリゼー宮の椅子に座り続けてきたが、去年欧州憲法の批准を国民に拒否されて、面目が丸つぶれになっただけではなく、経済政策でも行きづまって「死に体」となっている。

往年の威厳と影響力は、雲散霧消してしまった。

OECD(経済協力開発機構)によると、フランスの失業率は10%に近く、ドイツを上回っているほか、特に若年者の失業率は、20%に達している。

去年シラク大統領とドヴィレパン首相は、勤労者の解雇からの保護規定を緩和することによって、雇用市場の流動性を高める法律を導入しようとしたが、学生らの激しいストライキのために、法案を取り下げるという敗北を喫した。

また去年は、移民らが多いパリ近郊の住宅街を中心に、若者たちによって車が放火される事件が相次ぎ、法治国家の沽券にかかわるような状況が生まれた。

今年に入っても、マルセイユで若者が乗り合いバスにガソリンをまいて放火し、乗客1人が重傷を負う事件が起きている。

フランスの住民の370万人が貧困状態にあり、250万人が最低賃金水準で生活している。

 政府支出はGDP(国内総生産)の54%に達しており、OECD平均の41%を大きく上回っている。

公共債務が
GDPに占める比率は66%だが、現在のままの状態が続くと、2014年にはGDPの100%に達するという予測もある。

学生たちは、就職について強い不安を持っているため、全体の75%が、解雇の危険が低い公務員になることを希望している。

こうした「フランス病」を克服するには、構造改革によって財政支出を減らし、民間部門を活性化することによって、企業の競争力を高め、雇用を拡大する必要がある。

 さて大統領の座を争うと見られているのは、保守党UMP(国民運動連合)のザルコジ内務大臣と、社会党のセゴレーヌ・ロワヤール女史である。海千山千の政治のプロとしては、ザルコジ氏に軍配が上がるかもしれないが、フランス国民が12年間におよぶシラク時代の後、大変化を求めるとしたら、女性大統領ロワヤール氏が誕生する可能性もある。

 2人ともフランス国民の国家への依存を減らして、民間部門の後押しをすることは間違いないが、フランス人はアメリカ流の資本主義や、いわゆる経済グローバル化に対して、強い不信感を抱いている。

このため、社会保障の安全ネットに大きな穴を開けるような形で改革を行う政治家は、国民に「ノン」と言われるだろう。

つまりフランスの新しい大統領は、従来のような国家主導型の経済運営とも、アメリカ流市場経済とも異なる、「第三の道」を見つけることを迫られているのだ。来年の大統領選挙の行方が大変気になるところだ。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

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保険毎日新聞 2006年11月